Rosso

音楽聴いて想像して書く暇つぶし。 あくまであたしのイメージのお話。

JPOP Xfile


思い出せない、あの人の名前は何だっけ?

夢から覚めてベッドの上でふと思い出した。
昔の恋人。これ以上ないってくらい好きで焦がれてそれこそボロボロになるまで。あんなに誰かを好きになることはもうないだろうあの人。
忘れるはずのないその名前が思い出せない。あぁ、頭が痛い。

夢の中で隣にいた。
あの頃みたいに好きな曲を2人で聴きながら
夕暮れを眺めながら
電車に揺られながら
幸せな未来とか週末の予定とか他愛のない恋人の会話をしていた。
触れたくて、数センチがもどかしくて手を延ばしたらあたしの手は透けていった。
焦るあたし、笑う彼、必死なあたし、遠ざかる彼…いやだ!涙を流したらそこで途切れた。

たばこを片手にベランダに出て思う。
あたしは知ってる、もうあの人に会うことはないこと。2人の未来が重なることはないこと。とっくの昔から知ってる。
それでも、きっと、たぶん、まだ心の底では忘れられない。
自分の未来なんて全てくれてやるって思うくらい好きだったことを。
2人で聴いたあの曲を。

だからこそそんな記憶を切り裂いて破り捨てたのに。
あの曲も、歌うアーティストも、耳にしないようにしてたのに。

久々にそんな曲を口ずさみながら
数時間後には何事もなかったように思い出すであろう名前の彼を想う。
幸せに生きていますようにと。
この曲を覚えていてくれますようにと。

青い濃い橙色の日


どこまでいけば、いつになったら
この声は消えるのだろう?
「本当にそれでよかったの?」
「その嘘で身が持つとおもってるの?」
仕方がないじゃない、あれがあたしの思う
最善だったんだから。

別れたのにお互い好きだなんてならないように
うまくサヨナラできるように
嫌われるよーに別れたの。嫌な女になった。

そんなの正解なわけがない。
どうして最後までそんなに優しいの?

友達はみんな言うけれど
あたしは優しくなんかない
逃げただけだよ。
他になにも分からなかったの、正解ってナニ?

夜になるとあたしを襲うあの声は
あたしの声でもあの人の声でもない。

そうやって自分を守ってきたんだから
今更やり方なんて変えられない。
一緒に行った場所には今だって
行けば見えないあの人の姿があるけれど
1人で歩くの、錆びた道を。あの時みたいに輝かない道を。

本当は隣にいたかったよ。
ずっと横にいたかった。
いつかまた元に戻る日を信じたかった。
あたしの色なんてなくなってもいいと思ってた。

でもだめなんだよ。
悲しみに憧れちゃ、ただ焦がれるだけじゃ。
壊れてしまう、あたしも彼も。

手を振ったけれど
よかったのかなんてわからない。
あの日は、あの声は、いつまでも続くのかもしれない。
それでもあたしは1人で歩くの。

いろいろ混ざった色はもう元には戻らないけれど。

発光体


赤いフロアにはほとんどひとがいない
ここは高円寺のハコ。地下にある。
赤と黒の溶けたような空間で
アルコール片手にライブを見てる。

何がしたいのかわからないけれど
ステージの上の彼らは狂っている。
バスドラがだんだん加速していく
それに乗せてベースの粒も増えてって
ギターの音は歪んで加速して訳がわからない。

どんどん加速していくリズムに合わせて
体を揺らしながら、赤く照らされたアルコールを飲み干す。
だんだんあたしまで訳がわからなくなってくる
楽しいのかな…うん、たのしいや。

お兄さんビール頂戴。
なぜか手にしたのはブラッディマリー
なんか血みたい。気持ち悪いわ。
まぁいっか。だいぶ頭がやられてきてる。大抵のことがどうでもよくなる。

ステージの上の彼らは馬鹿だろ?なんて叫んでる。
気持ち悪い声で。赤い照明がぴったりだ。
あたしがその赤になりたいなんて。
いよいよ本当に訳のわからないことを考えてる
あたしは彼ら以上の馬鹿だ。

まどろむ意識の中でトイレの壁の絵が浮かぶ。
Kissする男女の下に描かれたMake Love
きっと今日も酔い潰れたあたしはあの中の誰かと
そこでそんな行為に及ぶんだななんて思いながら
片手の血みたいな酒を飲み干した。

Sunny Morning


晴れた。
昨日までの雨は止んで気持ちがいいくらいの晴れ。
これは出かけなくちゃ、カメラを持って飛び出した。

向かう先は駅だ、もうすぐ行ってしまう。
急げ急げ、自分に言い聞かせて
頑張れ、あたしの足、間に合わない。

カメラは置いてくるべきだったな。
走りながらつぶやく。
そうしてやっとついた駅。
電車がくる少し前、ギリギリセーフ。
あいつはホームに立ってた。
新しい靴を履いて、大きなカバンを持って。

はい、チーズ。
あえてカメラは向けずに、指でフレームを作ってあいつに向けた。
何やってんの?なんて笑う顔はカメラを向けたらきっと撮れなかったな。

旅立ちの朝。始まりのとき。
新しい世界に飛び込む。あたしもあいつも。

バイバイ。
電車が来た。
もう一回指のフレームを向ける。
そして笑うあいつに手を降った。

雲ひとつない空。
これからいろんな色に染まっていく。
さぁ、あたしも新しい世界に飛び込む支度をしなくっちゃ。
まずは靴を買わなきゃな…なんてつぶやきながら
タンポポの花を撮った。
あたしの旅立ちももうすぐだ。

初花凛々


ハローハロー春が来た。
花が咲いてる。
鳥が泣いてる。
あたしも泣いてる。

わがままだらけで困らせて
サヨナラを言ったのもあたしだ。
謝り方なら知ってた。
でも謝りたくなかったの。
悪いのはあたしだ。
ほんの少し前のあたしだ。
何も知らなかったあたしだ。

会いたいなぁ。
つい携帯に手を伸ばす。
舞う桜の花びらは一緒に見るはずだったのになぁ。
そう思って手を止めた。

ハローハロー君は今どこにいますか?
あたしの涙は今届きますか?
手を伸ばしたら捕まえてくれる?

そんなことを思いながら庭に出た。
泣きながら歌うんだ、あの歌を。
そしてスッキリしたら出かけよう
あの人が好きなあの場所へ。
たくさん花の咲くあの場所へ。

あの人がいてもいなくても
あたしがいてもいなくても
お互いの日々を祈るの、幸せであるように。

ハローハロー春が来た。
ハローハロー君はいない。

春風に吹かれて、泣いて、眠って、叫んで、笑って、いつか忘れるかな。

ワールド イズ ユアーズ


彼はずるい。
さっきの話は彼の理想だけのお話。
そんなもの受け入れられるわけない。

あたしは弱い。
いつだって昨日を追い続けてる。
新しくやってくる今日を受け入れるのが怖いのだ。

話は平行線をたどったまま。
怖がることはない?そんなの嘘だ。
変わっていくことがあたしは怖い。
すべてが怖い。変わらないものなんて世の中にないのだから。

じゃぁ。
あなたの言うその言葉も変わることはないの?
理想の中に時々紛れ込む愛の言葉
そもそもその理想も。
逃げの手段をうまく盛り込んであることくらい気づいている。
彼はずるいのだ。

どうして?
お前はなんでそんな考えしかできないの?
いつだって彼女は後ろ向きだ。
俺の言葉も未来も信用しない。
愛の言葉だってどんだけ吐いても返ってくることはない
もちろん想ってることはわかるんだ。
ただそれを口にすることを嫌がる。
そもそも考えてることを口にしないのだ。
それじゃあわからない。

話は平行線をたどったままだ。
お前の世界はお前のもので
未来はお前の思い描く色にちゃんと変わるから
その時に隣にいたいんだ。
そんな簡単なことがなかなか伝わらない。

もどかしさに涙が出た。
情けない、男のくせに。
大事な人に大事なことを伝えられない。
術を尽くしてもわからない。
どうしたらいいんだ。
気づかれないように上を向いた。

彼の涙をはじめて見た。
その時あたしは自分を恥じた。
怖いから、ただそれだけであたしはこの人を傷つけてる。
この人は恐れることなくあたしにぶつけてくれているのに。

ごめんね、ありがとう、すきだよ。
思いつく言葉を繋げてみた。
彼は目を丸くしてあたしを見た。
そりゃあそうだ、そんな言葉をいきなりかけたのだから。

信じてみようかな。この人とあたしの世界を。
傷ついてもぶつかってくれる彼を見て
そんなことを思ったんだ。
世界はあたしのもの。
世界はあなたのもの。

世界のエンドロール


世界じゅうのニセモノをかき集めて部屋のなかで大声で叫ぶ夢を見た。
今日でおしまいだってさ。

民意よりも保身が大事な政治家たちはそそくさと逃げたらしい。

一体どこに?今日で世界は終わるらしい。

イヤホンからは爆音でロックンロールが流れる。
国道をデッカいバイクに乗った兄ちゃんが飛ばす。
そうは言っても街は普通に動いている。

もし本当に世界が終わるなら
その朝焼けから夕焼けから夜空からすべてをこの目におさめておこうと私は思った。
今まで歩いた馴染みの道も大好きだった彼と行った場所も
すべてこの目におさめておこうと思って家を出た。

いろいろめぐって最後にたどり着いた渋谷の電気屋のTVでは
途切れることなく世界の終わりを嘆くキャスターとコメンテーター。
バラエティはやってないのか、ゴールデンタイムだっていうのに。

いっそのことその根拠を教えてくれよ。
そんなことをつぶやきながら彼は目の前に立っていた。
そして私に振りかえって「ねぇ?」と同意を求める。
私は「はぁ。」と答える。彼は構わずそのまま喋り続けている。きっと返事なんて聞いていない。
正直理由も根拠もどーだっていいじゃないか、世界が終わるなら。そんなことを思いながら彼の話を聞き流す。

「とりあえず」私は言った。「ヒマなら一緒に歩いてみません?」なんでそんなことを言ったのかはわからない。世界の終わりを1人でいるのはさみしいと思ったのか、それともこんな時に男と女がセットになるのは人間の本能なんだろうか?
とりあえず返事を待たずにその場を去ろうとしたら
彼は何事もなかったように、旧知の友人のように隣に立って歩きだした。

何も話すことなくどれだけ歩いたか。
夜はとっくに更けて、去って、空が白み始めた。
なんだ、また朝がきたじゃない。
都会の小さな公園で名も知らない彼の手を握ったまま私は言った。
そうですね。
初めてまともにかわした会話に少しほっとしながら
朝焼けの空を眺め、そして私は目を閉じた。